遺産分割とは、相続の場合に、一応相続人の共有となっている遺産を共同相続人の相続分に応じて分割して、各相続人の財産にすることです。
遺産分割は、遺産に属する物または権利の種類、性質、相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況、その他一切の事情を考慮して行います。
したがって、必ずしも法定相続分どおりに遺産を分割する必要はなく、法定相続分に固執して杓子定規に分割するよりも、諸事情を考慮して柔軟に分割した方が良いと思います。
遺産分割の種類には、
指定分割、
協議分割、
調停・審判分割があります。
まず、遺言による指定があれば、それに従い(
指定分割)、遺言による指定がなければ、共同相続人の協議によります(
協議分割)。そして、協議が調わないか協議することができないときは、家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができます(
調停・審判分割)。
【遺産分割の方法】
現物分割 |
遺産の中の個々の財産を具体的に分配すること |
換価分割 |
遺産の全部または一部を売却して現金に換え、その現金を分配すること |
代償分割 |
遺産を特定の者が多く相続するが、その代償として金銭を分配すること |
共有分割 |
遺産の全部または一部を相続人全員が共同で保有すること |
※これらの方法は、併用することもできます。
- 特別受益・寄与分
特別受益とは、相続人中に被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた者(特別受益者)がいる場合に、その者が受けた利益のことです。
相続人中に特別受益者がいる場合は、被相続人が相続開始時に有した財産の価額にその遺贈または贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分の中から、その価額を控除した残額を特別受益者の相続分とします(特別受益の持戻し)。
そして、計算の結果、遺贈または贈与の価額が相続分の価額に等しく、またはこれを超えるときは、特別受益者は相続分を受けることができません。
もっとも、被相続人が特にこれと異なる意思表示をしたときは、遺留分の規定に反しない限り、その意思に従って計算します(持戻し免除の意思表示)。
寄与分とは、相続人中に被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者(特別寄与者)がいる場合に、その者に与えられる相続分のことです。
相続人中に特別寄与者がいる場合は、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分に寄与分を加えた額を特別寄与者の相続分とします。協議が調わないか、協議することができないときは、家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができます。
いずれも遺産分割の際に相続人間に不公平を生じさせないようにするために相続分を修正する制度であり、相続人の具体的相続分を計算する上で一つの判断要素となります。
- 相続欠格・廃除
相続欠格とは、相続に関して正義に反するような一定の非違行為があった者については、法律上当然に相続権を剥奪し、相続人たる資格を失わせることです。
そして、次の@〜Dの欠格事由に該当する相続人を相続欠格者といいます。
@ |
故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者 |
A |
被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者 |
B |
詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者 |
C |
詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者 |
D |
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者 |
相続欠格者は、裁判上の宣告や特別の意思表示を要しないで、法律上当然に相続権を失い、遺贈を受けることもできなくなります。
廃除とは、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)が、被相続人に対して、虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったときに、被相続人が、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求し、相続権を剥奪し、相続人たる資格を失わせることです。
そして、廃除された相続人を被廃除者といいます。
被廃除者は、当然に相続権を失いますが、相続欠格とは異なり、遺贈を受けることはできます。
廃除の方法には、被相続人による生前廃除および被相続人が遺言で廃除の意思表示をする遺言廃除があり、生前廃除の場合は、被相続人自らが、遺言廃除の場合は、遺言の効力発生後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求します。
廃除は、家庭裁判所による審判の確定または調停の成立によって効力を生じます。
そして、申立人は、審判の確定または調停の成立の日から10日以内に、市区町村役場に審判書謄本(確定証明書付き)または調停調書謄本を添付した廃除届を提出します(報告的届出)。
- 相続人中に未成年者がいる場合
相続人中に未成年者がいる場合は、未成年者は行為能力を制限されているため、遺産分割協議に参加することはできず、親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。
しかし、親権者自身も未成年者とともに共同相続人となる場合は、相互に利害が対立する(利益が相反する)ため、親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することはできず、親権者は未成年者のために家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。もっとも、親権者があらかじめ相続放棄をしているか、少なくとも相続放棄をすると同時に子の全員のために相続放棄をすることは、相互に利害が対立しないため、利益相反行為となりません。
なお、未成年者といっても婚姻している場合は、民法上、成年に達したものとして扱われる(成年擬制)ので、遺産分割協議に参加することができます。
次に、親権者が未成年者とともに共同相続人とならない場合に、未成年者に代わって遺産分割協議に参加する場合でも、同一の親権に服する複数の子がいる場合は、子同士で利害が対立し、利益相反行為となるため、親権者は他の子のために家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。仮に利益が相反するにも関わらず、親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加した場合は、無権代理行為となります。そして、未成年者が成年に達した後に親権者の行為を追認しなければ、その遺産分割協議は無効となります。
なお、未成年者が相続人となる場合でも、その子があと数年で成年に達する場合や特に遺産分割協議を急ぐ事情がなければ、未成年者が成年に達するのを待ってから正式に遺産分割協議をしても良いと思います。
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こうした問題に対処するために、生前に贈与をしたり、遺言をしておくことをお勧めします。 |
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将来の円滑な遺産相続を実現するためには、多少時間や費用をかけてでも生前に将来の相続対策を講じておくべきです。当然のことながら、将来の相続対策は生前にしかできません。 |
- 相続人中に行方不明者(不在者)がいる場合
相続人中に行方不明者(不在者)がいる場合は、その者を除いて他の相続人だけで遺産分割協議をすることはできないため、いつまで経っても遺産分割をすることができません。
そこで、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる必要があります。しかし、不在者財産管理人は、不在者の財産を保持、利用、改良する行為しか認められていないため、不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加するには、さらに家庭裁判所に不在者財産管理人の権限外行為許可を申し立てる必要があります。
こうして家庭裁判所で選任され、権限外行為許可を受けた不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加することで遺産分割協議をすることができるようになります。
なお、不在者とは、従来の住所または居所を去って容易に帰来する見込みのない者のことをいい、生死不明である必要はありません。
また、@不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、A戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、不在者の生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。
失踪宣告は、生死不明の者を法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度であるため、その者を除いて他の相続人だけで遺産分割協議をすることができるようになります。
また、失踪宣告により失踪者自身について相続が開始するので、失踪者の相続人は、その財産につき遺産分割協議をすることができるようになります。しかし、失踪宣告は、失踪者を「死亡」したものとみなす制度であり、戸籍に記載されます。そして、親族の感情にも配慮する必要があるため、その利用には慎重な判断が求められます。
なお、この死亡は、あくまで「失踪宣告」により死亡の扱いがなされるものであり、失踪を覆す事実、例えば、失踪宣告を受けた者が帰来し、生存していることが判明した場合は、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求により、失踪宣告を取り消さなければならないとされています。
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こうした問題に対処するために、生前に贈与をしたり、遺言をしておくことをお勧めします。 |
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将来の円滑な遺産相続を実現するためには、多少時間や費用をかけてでも生前に将来の相続対策を講じておくべきです。当然のことながら、将来の相続対策は生前にしかできません。 |
- 相続人中に海外居住者(在外邦人)がいる場合
相続人中に海外居住者(在外邦人)がいる場合は、一般的に、その者に国際郵便などで遺産分割協議書(または各自ごとに作成した遺産分割協議証明書)を託して、現地の領事館に赴いて、次の@およびAの手続をしてもらう必要があります。
@ |
サイン証明書(形式1:貼付型)の取得
サイン証明書は、印鑑証明書に代わるものです。
サイン証明書には、形式1(貼付型)と形式2(単独型)がありますが、通常、登記には形式1(貼付型)を利用します。領事館の担当官の面前で自ら遺産分割協議書(遺産分割協議証明書)に署名および拇印を押捺した後、これとサイン証明書を合綴の上、担当官に契印を押してもらいます。 |
A |
在留証明書の取得
在留証明書は、住民票に代わるものです。
在留証明書に記載する提出理由は「登記」、提出先は「法務局」などとします。
また、登記に用いる在留証明書には「本籍地」を記載する必要がありますが、本籍地を記載するには戸籍などを提示する必要があるため、予め日本から戸籍などを取り寄せるなどしておく必要があります。 |
なお、領事館のサイン証明書に代えて、現地の公証人に認証してもらう方法や日本に一時帰国中であれば日本の公証人に認証してもらう方法もあります。
また、領事館によっては印鑑登録制度を採用しているところもあり、印鑑登録を行えば印鑑証明書を発行してもらうことができます。
さらに、韓国や台湾は、日本と同様、印鑑登録制度を採用しているので、その印鑑証明書の利用を検討しても良いかも知れません。ただし、現地の言語で書かれている文書は翻訳が必要となりますし、その他にも煩雑な手続が必要となる場合があります。
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こうした問題に対処するために、生前に贈与をしたり、遺言をしておくことをお勧めします。 |
※ |
将来の円滑な遺産相続を実現するためには、多少時間や費用をかけてでも生前に将来の相続対策を講じておくべきです。当然のことながら、将来の相続対策は生前にしかできません。 |